母乳育児支援連絡協議会 2020年7月11日 |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と診断されている母親の授乳についてはまだ科学的な知見が十分に集積しておらず、医療従事者も母親も時に難しい選択を迫られる場合があります。産後早期の感染予防の観点だけでなく退院後の養育も見据え、施設の方針を決定する際や、個々の患者の対応の判断の際に役立てていただければ幸いです。 1. 感染(もしくは疑い)となった場合の乳児栄養の選択 世界保健機関(WHO)や米国疾病予防管理センター(CDC)は、手洗いやマスク着用などの防護策をとったうえでの母乳栄養を推奨しています。一方、本邦の学会は分娩時と同じく、母子分離あるいは搾乳を推奨しています。これまで母乳と感染防御に関しては、母親が何らかの病原体に感染した場合には抗体が産生され母乳中へ分泌されることや、母乳中には感染防御に有効な生理活性物質が含まれていることが知られています。COVID-19に関しては研究が進行形であり、現時点で十分な知見は得られていませんが、こうした母乳栄養の利点をふまえ、母親と家族の選択に寄り添いながら決定していく必要があります。 2. 分娩時の母子分離はできるだけ避けることと、やむを得ず行う場合のリスク 分娩直後から母子が一緒にいて授乳を開始することは、母乳分泌の確立と愛着の形成に大きく寄与します。一律の母子分離はこれらの利点を得られない可能性があり、保健医療従事者はそのリスクを十分に認識する必要があります。WHOや欧米の産婦人科学会ではCOVID-19を理由とした一律の母子分離をしないように推奨していますが、現在本邦では指定感染症であり母子分離の方針を取っている施設が多いのが現状です。CDCでは母子感染予防だけを考えれば一時的な母子分離はやむを得ないものの、状況にもよるので最終的にはよく話し合って母親の希望を尊重して一緒に決めることを推奨しています。 やむを得ず分離が必要な場合には、母乳分泌の確立と維持のために搾乳の支援が必要です。対面で行うことが難しい場合には動画を用いるなどの工夫もできます。また、感染から回復して母子が退院したあとに、母親と家族が選択した栄養法がうまくいくよう、地域と連携した長期的なフォローアップが必要です。 3.感染時における母親・家族への心理的支援 母親や児の全身状態、院内感染リスクなどの理由により、入院中には施設の決まりに従わざるを得ない状況があるかもしれません。未だ不明な点が多い感染症の流行の中で、難しい局面での判断を迫られながら、母親や家族とともに、COVID-19に対応しているすべての保健医療従事者の方々に敬意を表します。 このような状況下にあっても、母親・家族と情報を共有し、できるだけその意思を尊重して、気持ちに寄り添いながら一緒に選択肢を考えることができると、母親にとっては、最善を尽くしたのだという思いにつながり、その後の育児への自信となります。 協議会各団体では今後とも支援に必要な情報を提供してまいります。詳しくは以下のサイトを参照下さい。 一般社団法人日本母乳の会 https://www.bonyu.or.jp/ 一般社団法人日本母乳哺育学会 http://square.umin.ac.jp/bonyuu/ NPO法人日本ラクテーション・コンサルタント協会 https://jalc-net.jp/ NPO法人ラ・レーチェ・リーグ日本 https://llljapan.org/ |