地震・津波や水害などの災害時には「災害弱者」としての乳幼児とその母親には、栄養についての特別な支援が必要である。以下は、災害時の乳幼児栄養についての保健医療専門家としての観点からの指針である。
災害時には栄養的支援のみならず、心のケア、社会的サポート、および感染症予防の観点を視野に入れた包括的支援が必要である。栄養的支援のために、担当部門は2歳未満の乳幼児の数(月齢別に)、2~5歳の子どもの数、妊婦、授乳中の女性の数を把握し、その栄養方法を把握、評価、モニターすることが必要となる。
災害発生直後には、まず乳児用人工乳とその調乳に必要な物資が必要とする場所に迅速に届くよう手配する。平行して母乳育児中の母子に対して、母乳育児が継続できるような支援を行う。
1.乳児用人工乳は適切に供給する
非衛生的な環境下での調乳や人工乳の使用は、感染性胃腸炎の発生や流行のリスクを高めて危険である。調乳には安全な水,容器、熱源(コンロなど)が必要なことにも留意し、安全な調乳ができる環境の確保に努める。母乳で育てている母親に適切な情報と支援を提供しないまま必要以上の量の人工乳を配給することは、母乳分泌量を減らしひいては母乳育児の終了にもつながる。人工乳は責任のある単一機関が管理することで、必要な乳児や養育者にのみ支給されるようにすることが望ましい。善意からであっても責任のある機関が関与しない寄付は適切ではない。
2. 乳児用人工乳を使用する際の留意点
注1)コップでの授乳
新生児でも、乳汁はスプーンや小さなコップで飲ませることができる。洗浄や消毒ができないような状況では、あれば使い捨ての紙コップが便利である。
(1) 赤ちゃんが完全に目が覚めている状態で、母親のひざに座らせて縦抱きの姿勢をとる。
(2) コップを下唇に軽く触れるように、コップの縁が上唇の外側にふれるようにあてる。次いで乳汁が赤ちゃんの唇にふれるようコップをゆっくり傾ける。
(3) 唇に触れると赤ちゃんは自分ですすって飲むので、コップを唇につけたまま、中の液体が唇に触れるよう少しずつ角度を調節する。口の中にミルクを注いではいけない。
(4) 呼吸を調節するためときどき休む。赤ちゃんは満ち足りると口を閉じ、それ以上飲もうとしなくなる。
(5) こぼれる量が多いかもしれないので,必要量はその分を見込んで調乳する。
3. 調整液状乳(液体ミルク)
災害でライフラインが停止してしまうような緊急時には調乳が必要な粉ミルクよりも安全である。国内では従来流通していなかったため、IFEコアグループ(注2)のガイドライン(注3)等を参考に、適切な情報とともに安全に運用されることが望ましい。
注2)IFEコアグループ(Infant Feeding in Emergencies Core Group):WHO, UNICEF, IBFAN (乳児用食品国際行動ネットワーク), ENN(緊急時栄養ネットワーク), WFP (国連食糧計画)、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)、SAVE THE CHILDRENなどの人道支援団体から成るネットワーク
http://www.ennonline.net/ifecoregroup
注3)Operational Guidance on Infant Feeding in Emergencies (OG-IFE) version 3.0
https://www.ennonline.net/operationalguidance-v3-2017
旧版は「災害時における乳幼児の栄養〜災害救援スタッフと管理者のための活動の手引き」
https://www.jalc-net.jp/dl/OpsG_Japanese_Screen.pdf
4.
災害時に母乳育児を続けることと、そのための支援の大切さ
5. 災害時に母乳育児を支援する方法